*ジャファアリ(現パロ)
「アリババくん」
振り向いた少年に今年もお世話になりましたありがとうございますと告げれば、慌ててこちらこそと勢いよく頭を下げられた。
冷え込む夜闇の公園に人気は無い。生徒会活動に勤しむ彼は放課後遅くまで学校に残って仕事をしていて。迎えに行った帰り道、少しばかり寄り道をしようと小さな公園へ足を運んだ。端にある自販機で温かい飲み物を購入し、二人して飲む事もせずカイロ代わりにぎゅっと握り続けている。しばらく無言のままでいたが、アリババくんの横顔が視界に入った瞬間スルリと冒頭の台詞が零れ出てきた。
「もうたった数時間で年が明けますね」
「はい……早いですね」
「ええ本当に」
早いものだとポツリ言葉が落ちる。自身とアリババくんが出会ってもう三年になるのかとしみじみ現実を噛み締める。出会いのきっかけは自身の上司によるのだが、今となってはもうあまり思い出したくない過去である…がしかし、この子と出会えたという一点だけは生涯において一番の幸福であると自信を持って言えるのだから苦笑する他無い。
「来年もよろしくお願いしますね」
来年と言わずこれから先もずっとと口にしそうになる衝動を抑え込み、ゆるりと笑った。するとしばらくぽかんと呆けていたアリババくんが、ややして満面の笑みを浮かべて唇を開いた。
「はい、これからも毎年こうしてジャーファルさんと居られたらって思います」
(っ、ぁ、)
思わず動きそうになった身体を今まで培ってきた精神力全てで何とか留めた。ピクリと僅かに指先が震えただけで収まり、彼はどうやら私の変化に気付かなかったらしい。小さく呼吸を繰り返して鼓動を落ち着ける。にこりにこりと笑い花を飛ばすこの少年は果たして自分をどうしたいのか…そう思ってしまう程には心臓に悪い言動が常から多々ある。
「私もずっとアリババくんとこうして一緒に居られたらと思います」
ようやくそれだけ返して、そろそろ帰ろうかと立ち上がった。家に着くまでにこの冷たい夜風で火照る顔が少しでも落ち着くようにと願うしかなく…。
*シャルアリ
「アリババー!飲んでるかー!」
「師匠…あの、近いです」
「うるせーよ女子かお前は。俺とお前の仲だろーがァ」
数時間前に師匠の自室で飲み出したのだが、珍しく俺より先にグダグダになった相手に困るばかりで。正に酔っ払いよろしくやたら絡んで来る相手の体重が横から掛かってきて、支えきれずに床に二人して倒れ込んだ。
「重、っちょ…師匠重いです」
「んー?なあに軟弱なこと言ってんだ。修行が足りねーぞ修行がァ」
「分かりました、から、退いて下さ」
文句は突然遮られた。酒臭い唇が降ってきて俺のソレと合わせられたのだ。
「っ、んむ…ン、ぅ」
思う様好き勝手に蹂躙してからようやく離れる唇。非難を篭めて上にある顔を睨むが、とろんと緩んだ師匠の顔に酔っ払いに何を言っても無駄だろうとため息を吐くしかなかった。
「アリババァ…来年も鍛えてやるから…な」
それだけ言って寝息を立て始めた相手にもう一度ため息を吐く。
「お手柔らかにお願いしますね、師匠」
とりあえずこの人の下から簡単に抜け出せる位の力は付けたいものだと来年の目標を掲げる俺だった。